List of Recent topics

【 2020年3月 】 PrTi2Al20の強四極子秩序における磁場方位効果
PrTi2Al20は立方晶の非磁性Γ3結晶場基底状態を持ち、TQ=2 Kで比熱の飛びを伴う強四極子秩序状態に相転移することが知られています。最近、NMR測定から強四極子秩序状態において[001]あるいは[110]方向に磁場をかけていくと2 T付近で1次相転移が起きることが明らかにされました。この結果は磁場中での四極子秩序変数の不連続な変化を示唆しており、従来の四極子秩序模型では期待されない現象です。[111]方向の磁場下では磁場誘起の相転移は観測されず、PrTi2Al20の温度磁場相図は異方的であることも分かっています。こうした予想外の現象は、磁場に依存する四極子間相互作用を現象論的に導入することで、それとゼーマン効果の拮抗により説明できるのではないかという興味深い指摘がされました。本研究では、PrTi2Al20の異方的な磁場誘起秩序相の実体に迫るために、理論計算可能な熱力学量である比熱とエントロピーの磁場角度変化を詳しく調べました。立方晶の[001], [111], [110]軸を含む(1-10)面内で磁場を回転させながら測定を行った結果、1 T以上の磁場を[111]方向から僅かに傾けるとTQでの相転移がクロスオーバーに変化すること、[001]方向とは対照的に[110]方向では励起状態とのエネルギーギャップが低磁場領域では大きく変化しないことが明らかとなりました。実験結果と良く一致する比熱の磁場強度・磁場角度変化を前述の現象論的な模型を用いた理論計算から得ることにも成功し、磁場に依存する異方的な四極子間相互作用の存在は本実験結果とも矛盾しないことを報告しました。結果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました
【 2019年7月 】 SrxBi2Se3におけるネマティック常伝導状態の証拠
近年、銅酸化物や鉄系化合物、重い電子系物質などにおいて、結晶の回転対称性を破る新奇な電子状態(いわゆるネマティック電子状態)の研究が盛んに行われています。中でも、母物質がトポロジカル絶縁体であるビスマス・セレン化合物CuxBi2Se3においては、結晶の回転対称性を破る「ネマティック超伝導」が見出され、新しい種類の対称性の破れを伴う超伝導として注目を集めています。我々は、CuサイトをSrに置き換えたビスマス・セレン化合物SrxBi2Se3に着目し、その電子状態の異方性を磁場角度分解比熱測定から詳細に調べました。その結果、本物質では超伝導転移温度より高い温度からネマティック電子状態が実現していることを突き止めました。常伝導状態にもかかわらずSrxBi2Se3において比熱の2回対称の磁場角度振動が観測された理由として、スピン軌道相互作用が強く働くネマティック相で準粒子状態密度の異方性が大きくなったためにゼーマン効果が顕著に磁場角度に依存した可能性を提案しました。本研究成果はビスマス・セレン化合物におけるネマティック超伝導とその電子状態の関係に迫る上で重要な実験事実であり、結果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2018年8月 】 Sr2RuO4の超伝導秩序変数の再検証:超伝導ギャップに水平ラインノードが存在
Sr2RuO4は大変珍しいカイラルp波超伝導体の有力候補として長年注目されてきましたが、近年それに反する実験事実も複数報告されています。その最たる例が面内磁場下で生じる超伝導1次転移です。低温でHc2の抑制を伴うことから「パウリ常磁性効果」が連想されますが、現状のスピン三重項超伝導シナリオとは相容れません。また、擬2次元フェルミ面でカイラルp波超伝導が起きた場合、超伝導ギャップは対称性に守られたノードを持ちませんが、ラインノードの存在を示唆する実験結果も数多く報告されています。そこで我々は、Sr2RuO4の超伝導ギャップ構造の解明を目指して磁場角度分解比熱測定を行いました。ab面内回転磁場中では4回対称の比熱振動が低温で観測されますが、60 mKの極低温まで測定を行った結果、低磁場の比熱振動は符号反転することなく観測され続けることを新たに見出しました。本結果は、有力視されてきた縦ライン状のギャップ極小を持つ超伝導体に期待される振る舞いとは定性的に異なります。そこで、水平ラインノードギャップを仮定して微視的理論に基づく数値計算を行ったところ、フェルミ速度に異方性があれば比熱測定結果を定性的に再現できることを見出しました。さらに、パウリ常磁性効果を仮定すれば、より良い一致が得られることも明らかにしました。本研究成果はSr2RuO4の超伝導秩序変数に再考を促すものであり、結果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2018年6月 】 磁場回転に伴う磁気熱量効果を利用した磁場角度分解エントロピー測定法
エントロピーは基礎的な熱力学量であり、系の縮重度を反映する重要な物理量です。一般に、エントロピーは比熱の温度変化から見積もることができますが、磁場角度変化まで高分解能に調べるためには複数の磁場方位で比熱の温度依存性を測定する必要があり、測定に膨大な時間を要する点が問題でした。我々は磁場回転に伴う磁気熱量効果を精密に測定することでエントロピーの磁場角度依存性を比較的短い時間で高分解能に測定できる新たな手法を開発しました。ベンチマークとしてスピンアイス物質Dy2Ti2O7の磁場角度分解エントロピー測定を行った結果、スピンフリップ転移の角度依存性を高精度に検出し、モンテカルロ数値計算結果とも良く一致することを示しました。磁場回転測定に加え、従来の磁場掃引に伴う磁気熱量効果も測定すれば、エントロピーの磁場・磁場角度マップを作成することも可能です。今回開発した実験手法は、巨視的な縮退度を有するフラストレート磁性体や多自由度を有する固体凝縮相など様々なエキゾチック現象の研究に有用であり、幅広い分野の研究に新たなアプローチを提供するものとして期待されます。本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2017年12月 】 多バンド鉄系超伝導体FeSeのギャップ構造
磁場角度分解比熱測定から鉄系高温超伝導体FeSeの超伝導ギャップ構造について詳しく調べました。低温比熱の磁場依存性は3つのギャップの存在を示唆する特徴的な振る舞いを示し、比熱の磁場角度依存性から一番小さいギャップには2本の縦状のラインノード(あるいはギャップ極小)が存在していることを見出しました。本結果は鉄系高温超伝導体のエキゾチックな性質や対形成メカニズムを理解する上で重要です。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されました
【 2017年9月 】 U0.97Th0.03Be13の超伝導多重相
UBe13のUサイトをThで僅かに置換するとゼロ磁場比熱に2段転移が現れることが知られており、超伝導多重相が実現する系として期待されています。本研究では、比熱に2段転移が現れるU0.97Th0.03Be13の磁場角度分解比熱測定および磁化測定を行いました。その結果、UBe13と同様に低温低磁場相では目立った低エネルギー準粒子励起が観測されず、U0.97Th0.03Be13の超伝導多重相内部でもフルギャップの超伝導状態が実現していることが分かりました。本結果はU1-xThxBe13の超伝導多重相における秩序変数を決定する上で重要な情報となります。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されEditors' Suggestionに選ばれました。
【 2017年9月 】 URhGeの磁場角度分解磁化
URhGeは、強磁性と超伝導の二つの状態が一つの物質内で発現する物質です。この物質にb軸方向から5度以内の狭い角度範囲に磁場をかけると、超伝導が一度壊れてしまいますが、さらに強い磁場かけると再び出現するという、磁場による特異な超伝導増強現象(リエントラント超伝導)が見つかっています。一方、同様の狭い磁場角度範囲で、磁気スピンの一次相転移が起こることが予言されており、この相転移の起点である三重臨界点の揺らぎがこの現象のカギを握っていると言われていました。これまで盛んに三重臨界点の研究が試みられてきましたが、磁場角度を高精度(0.1度)に調整しなければ正確に観測できないため、測定は困難でした。今回、我々は極低温・高磁場下で試料の角度を0.01度の精度で制御できる2軸回転機構を備えた磁化測定装置を開発し、磁化からURhGeの三重臨界点を捉え、三次元相図の作成に成功しました。この相図から三重臨界点はこれまで予想されたよりも超伝導状態から離れた高温にあり、三重臨界点の揺らぎは超伝導に直接影響しない可能性を示しました。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されEditors' Suggestionに選ばれました。(posted by S.N.) ⇒もっと読む
【 2016年8月 】 CeCu2Si2の超伝導ギャップ構造と磁場中対破壊効果
2014年にPhys. Rev. Lett.誌に掲載された論文d波超伝導体の有力候補CeCu2Si2が予想に反してフルギャップ伝導体であること、および磁場中で比熱と磁化に異常を伴う対破壊効果が起きていることを報告しました。こうしたCeCu2Si2の超伝導をより深く理解するために極低温比熱・磁化の温度・磁場・磁場方位依存性を詳しく調べた結果、比熱と磁化の磁場中異常はいずれの磁場方位でも熱力学的関係式を満たしながら低温高磁場領域で発現していることを確認し、超伝導状態の異常であることを明確にしました。また超伝導ギャップ構造に関して、ab面とac面のいずれの回転磁場中でもギャップ異方性を示唆する比熱異常は観測されず、超伝導ギャップにノードがないことを支持する結果を新たに報告しました。これまでCeCu2Si2ではゼロ磁場における比熱と核磁気緩和率1/T1が温度のべき乗に比例してみえることからギャップにラインノードを持つ超伝導が有力視されてきましたが、多バンド模型を用いればフルギャップでも実験結果を比較的良く再現できることを示しました。 本論文はPhysical Review B誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2016年8月 】 重い電子系超伝導体の磁場角度分解比熱
"Angle-resolved heat capacity of heavy fermion superconductors"というタイトルで、磁場角度分解比熱測定から重い電子系超伝導体の主にギャップ対称性を研究した成果をreview論文にまとめました。本論文にはT. Sakakibara et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76, 051004 (2007)の出版後から2015年までに得られた成果がまとめられています。本論文はReports on Progress in Physics誌のReport on Progressとして掲載されました⇒もっと読む
【 2016年7月 】 磁場角度分解比熱の全方位測定から明らかにしたUPd2Al3の超伝導ギャップ構造
磁場角度分解比熱測定はバルク超伝導体のギャップ構造を決める上で極めて有用な研究手法です。今回我々は反強磁性超伝導体UPd2Al3の磁場角度分解比熱が、ab面内では目立った振動を見せない一方でac面内では2回対称の振動を示し、その振動が磁場の上昇に伴い肩・ハンプとその構造を変えながら高磁場で異方性を反転させることを見出しました。この一連の比熱振動の磁場変化は、ギャップに水平ラインノードを仮定した数値計算結果と極めて良く一致することが判明し、水平ラインノードを持つ超伝導体に典型的な特徴であることが分かりました。本研究は、対形成メカニズムを解く鍵となるUPd2Al3のギャップ構造を明らかにしただけでなく、これまでに報告例が少なかった磁場角度分解比熱測定による水平ラインノードの検証方法を確立した点でも重要です。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されEditors' Suggestionに選ばれました。 ⇒もっと読む
【 2016年2月 】 カイラルd波超伝導体の有力候補URu2Si2の超伝導ギャップ構造を決定
URu2Si2は17.5 Kで「隠れた秩序」と呼ばれる奇妙な相転移を起こし、さらに低温の1.4 Kで超伝導状態に転移します。謎めいた「隠れた秩序相」の中でいかに超伝導が発現したのか、その難問に迫る上で超伝導ギャップ対称性の解明は極めて重要です。先行研究で大変珍しいカイラルd波超伝導の可能性が提案されましたが、一見矛盾する実験結果も報告されており確定には至っていません。そこで我々は非常に高純度なURu2Si2単結晶試料を用いて比熱の温度・磁場・磁場方位依存性を極低温まで精密に測定し、超伝導ギャップにおけるノード構造を詳細に調べました。その結果、ラインノードを持つ超伝導体に特有の比熱の温度・磁場依存性に加えてac面内回転磁場中で肩構造を伴う特異な磁場方位依存性を見出し、それらがカイラルd波超伝導体に特徴的な振る舞いであることを微視的理論計算から明らかにしました。これらの結果は、URu2Si2がカイラルd波超伝導体であることを決定づけるものであり、本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されEditors' Choiceに選ばれました。 ⇒もっと読む
【 2015年4月 】 角度分解磁場中比熱測定から見たUBe13の超伝導ギャップ構造と重い電子状態
超伝導ギャップは電子対の形成メカニズムと密接に関係するため、そのギャップ構造の解明が超伝導研究における重要課題の1つになっています。最近我々は、角度分解磁場中比熱を注意深く測定することによって重い電子系超伝導体CeCu2Si2のギャップ構造がこれまでの予想に反してフルギャップになっていることを明らかにしました。今回、同様の手法で重い電子系超伝導体UBe13のギャップ異方性を調べたところ、UBe13でもフェルミ面上にギャップノードを持たないフルギャップ超伝導状態が実現していることを突き止めました。強い電子間斥力の働く重い電子系では稀と考えられてきたフルギャップ超伝導状態がCeCu2Si2とUBe13において相次いで見出されたことにより、重い電子系超伝導の研究に新たな展開がもたらされることが期待されます。また、UBe13の常伝導状態で観測される非フェルミ液体的振る舞いについても、そのメカニズム解明の鍵となる興味深い比熱の磁場・磁場方位依存性を見出しました。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2014年12月 】 Sr2RuO4の超伝導一次転移において鋭い磁化のジャンプを観測
スピン三重項超伝導体の有力候補であるSr2RuO4では、ab面近傍の磁場方位において上部臨界磁場Hc2が低温で強く抑制されるメカニズムが分かっていません。さらに最近、そこでの超伝導転移が高純度の微小単結晶試料で一次相転移になっていることが発見されました。Hc2の強い抑制を伴う超伝導一次転移としてはパウリ効果が有名ですが、スピン磁化率が変化しないスピン三重項超伝導状態では期待できず、そのメカニズムが問題となっています。そこで我々は、磁場方位を精密制御した上で磁化および磁気トルクを極低温で測定できる装置を開発し、Sr2RuO4の微小単結晶の磁気的性質を詳しく調べました。その結果、超伝導一次転移において鋭い磁化のジャンプを観測し、その大きさがパウリ効果で期待されるジャンプと同程度であることを明らかにしました。また磁気トルク測定から、Hc2の異方性は温度と共に60から20へ減少するにもかかわらず、実際の超伝導異方性は低温でも60のままであることを突き止めました。これらの実験事実は、Sr2RuO4の対破壊メカニズムや超伝導秩序変数を解明する鍵となります。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2014年2月 】 CeCu2Si2が実は多バンドフルギャップ超伝導体であることを解明
1979年にCeCu2Si2で重い電子系物質初めての超伝導が報告されて以来、その発現メカニズムは多くの研究者の興味を惹きつけています。発見から30年以上が経過した今では、磁気ゆらぎを引力相互作用として実現した「ギャップにノードを有する」異方的d波超伝導であることが研究者間の共通理解となりつつあります。しかし、未だにそれを決定づける実験証拠は得られていません。そこで、我々はCeCu2Si2の超伝導対称性を明らかにするため、非常に純良な単結晶試料を用いて極低温まで磁場中比熱・磁化測定を行いました。その結果、CeCu2Si2の極低温比熱はゼロ磁場で指数関数的な温度依存性を示し、かつ低磁場では磁場に比例して増大、面内の磁場方位には鈍感であることを見出しました。これらの振る舞いは、驚くべきことにCeCu2Si2の超伝導ギャップに「ノードがない」ことを示しており、多バンドのフルギャップモデルで良く説明できることが分かりました。本研究結果は、長年の研究者間の「共通理解」に変更を迫るものであり、非従来型超伝導の研究に新たな指針を与える重要な成果です。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2013年12月 】 比熱測定から検証した鉄系超伝導体KFe2As2のノード構造とマルチバンド超伝導
鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2xの変化に伴って超伝導ギャップ構造も変化する非常に興味深い系です。特に、KFe2As2ではギャップにノードが現れることが報告されており、そのノード位置がこの系の超伝導発現メカニズムを理解する上で重要な鍵とされています。そこで我々は、バルク量である比熱を通じてKFe2As2の超伝導ギャップにおけるノード位置の特定を試みました。ab面内で回転させた磁場中で比熱測定を行った結果、低温比熱が[100]方向の磁場下で極小を示すこと、およびその4回対称振動が0.08Tcで符号を変えることを明らかにし、フェルミ速度が[100]方向を向いたフェルミ面上に超伝導ギャップノードが存在していることを突き止めました。この結果は、KFe2As2におけるギャップノード位置の直接的な情報をバルク量を通じて引き出した初めての結果で、レーザー光電子分光実験から最近提案されたoctet line nodeシナリオを支持するものです。他にも、マルチバンド超伝導におけるパウリ効果が起源と思われる奇妙な低温比熱異常を見出しました。本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2013年11月 】 極低温角度分解磁場中比熱測定から見た異方的s波超伝導体CeRu2のギャップ構造
回転磁場中比熱測定は超伝導ギャップにおけるノード構造を決定する上で強力な実験手段として近年定着してきましたが、異方的フルギャップの構造(ギャップ極小の位置やその大きさ)を評価した例はほとんどありません。我々は異方的s波超伝導体CeRu2Tc = 6.3 K)に着目し、僅かに純度の異なる2つの単結晶試料を用いて0.09 K(~ 0.014Tc)の極低温まで角度分解磁場中比熱測定を行いました。低温における比熱の温度変化から2つの試料のギャップ極小値が不純物散乱の影響で2倍程度異なっていることを明らかにした上で、微視的理論から予測されていた「低温低磁場でギャップ異方性を反映した比熱振動の振幅がゼロに減衰すること」および「振動振幅が減衰する磁場が異方的ギャップの極小値と相関を持つこと」を実験的に見出し、本研究手法が異方的フルギャップ構造の評価にも確かに有用であることを示しました。本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2013年1月 】 重い電子系超伝導体UPt3の異常な磁場方位依存性
重い電子系物質UPt3はスピン三重項超伝導体であることが確実視されていますが、その超伝導対称性やc軸方向の上部臨界磁場Hc2が低温で強く抑制されるメカニズムは未だ議論の渦中にあります。我々はこれらの問題の解決を目指して、様々な温度・磁場・磁場方位のもとで比熱測定を行いました。ac面内で磁場を回転させて比熱測定を行った結果、Hc2の強い抑制を反映した比熱の異常がc軸から30度以内の角度範囲(θ ≤ 30)の磁場下で顕著になっていることを明らかにしました。また、超伝導ギャップ対称性の検出を目指して行ったc軸中心回転磁場中比熱測定の結果、奇妙なことに最近注目を集めている2回対称のギャップ構造を示唆する比熱の振動は観測されないことを明らかにしました。これらの結果は、UPt3超伝導の謎を解明する上で重要な手掛かりになるものとして期待されます。本研究結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されEditors' Choiceに選ばれました。 ⇒もっと読む
【 2012年2月 】 角度分解磁場中比熱測定から明らかにしたCeIrIn5の超伝導ギャップ構造
これまでCeIrIn5の超伝導ギャップ構造はdx2-y2波ギャップと水平ラインノードギャップという相反する2つの可能性が議論されてきましたが、我々は円錐状に回転させた磁場中での比熱測定からdx2-y2波対称性であることを決定づけました。CeCoIn5、CeRhIn5と並んでCeIrIn5でもdx2-y2波超伝導が確立したことはCeMIn5系(M=Co, Rh, Ir)における普遍的な対形成機構を物語っており、超伝導発現メカニズムを理解する上で非常に重要な結果です。この結果はPhysical Review B誌に掲載されEditors' Suggestion & Physics Synopsisに選ばれました。新学術領域研究『重い電子系の形成と秩序化』のNews letter第4巻第2号にも解説記事が掲載されています。 ⇒もっと読む
【 2011年12月 】 Sr2RuO4におけるスピン三重項超伝導性の評価
"Evaluation of Spin-Triplet Superconductivity in Sr2RuO4"というタイトルで、A. P. Mackenzie and Y. Maeno, Rev. Mod. Phys. 75, 657 (2003)の出版後から2011年秋までに公表されたSr2RuO4の実験・理論両面の結果を中心にreview論文を執筆しました。本論文はJournal of the Physical Society of Japan誌のSpecial Topics: "Recent Developments in Superconductivity"に掲載されました⇒もっと読む
【 2010年5月 】 一軸性圧力によって誘起されるSr2RuO4の高温超伝導相
Sr2RuO4の超伝導の一軸性圧力効果を明らかにすることに初めて成功しました。Sr2RuO4c軸方向に僅か0.2 GPaの弱い一軸性圧力を印加すると、驚くべきことに、1.34 KだったオンセットTcが3.2 Kにまで倍増することを明らかにしました。この効果は、バンド計算やEhrenfestの関係式からこれまでに予想されていた一軸性圧力効果と質的・量的に異なっており、Sr2RuO4が異方的結晶歪みの有無によりTc = 1.5 KとTc ~ 3 Kという2つの超伝導相を元来有していることを示唆しています。この結果はPhysical Review B誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2009年11月 】 Sr2RuO4の超伝導上部臨界磁場角度依存性
Sr2RuO4はスピン三重項超伝導体であることが確実視されていますが、 磁場をab面方向に印加した際に観測される超伝導上部臨界磁場(Hc2)抑制の起源が未解決問題として残されています。我々はHc2の抑制が起きる条件を明確にするために、ベクトルマグネットを用いて非常に精密に磁場方向の制御を行い、交流磁化率をプローブとしてHc2の温度・磁場強度・磁場方位依存性を調べました。その結果、『ab面と磁場方向の間の角度が5度以内になったときにHc2が顕著に制限されること』や『Hc2の制限は低温だけでなくTc近傍から起きていること』などを明らかにしました。この結果はPhysical Review B誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2009年10月 】 Sr2RuO4-Ru共晶体における3-K相超伝導の一軸性圧力効果
Sr2RuO4‐Ru共晶体ではSr2RuO4の超伝導転移温度Tc(= 1.5 K)より約2倍高い3 Kからノンバルク(3-K相)超伝導を示しますが、そのTc上昇の起源は未解明です。私たちは、Ruが析出したことによるSr2RuO4の異方的な結晶歪みがTcの上昇に寄与していると考え、3-K相超伝導の一軸性圧力効果を調べました。その結果、いずれの一軸性圧力下においても最低温での反磁性磁化が上昇することを初めて明らかにし、その上昇はab面方向の一軸性圧力下で顕著に大きいことを示しました。これらの特性は3-K相超伝導のメカニズム解明に繋がり得る重要な性質です。この結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2009年5月 】 Sr2RuO4-Ru共晶体で起きるノンバルク超伝導の空間発達過程
純粋なSr2RuO4の超伝導転移温度は1.5 Kですが、Ru薄片がSr2RuO4単結晶中に規則正しく析出したSr2RuO4-Ru共晶体では3 K付近からノンバルク超伝導が起こります。我々は、Ru薄片の向きとSr2RuO4の結晶軸の関係が明確に分かるように試料を切り出し、その試料を用いて共晶結晶で起きるノンバルク超伝導の印加磁場強度・方向依存性を調べました。その結果、ノンバルク超伝導は、オンセット温度付近(~3 K)ではSr2RuO4のRuO2面に沿って広がり易く、Sr2RuO4の超伝導転移温度(1.5 K)に近づくにつれて試料全体に広がっていくことを明らかにしました。この結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました⇒もっと読む
【 2008年6月 】 Sr3Ru2O7-Sr2RuO4共晶体中のSr3Ru2O7領域で起こる多段階超伝導転移
Sr3Ru2O7-Sr2RuO4共晶体中のSr3Ru2O7だけの領域で弱い多段階超伝導転移が起きていることを明らかにしました。 また、交流磁化率測定結果が『バイレイヤーのSr3Ru2O7の中に挿入された数層のモノレイヤーRuO2層が超伝導になっている』というモデルで良く説明できることを示しました。この結果はPhysical Review B誌に掲載されました⇒もっと読む