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Last updated: Mar. 08, 2013

◆◆ 多極子秩序系 PrV2Al20 の高磁場秩序相 ◆◆

立方晶 PrV2Al20 は Pr イオンの持つ f 電子と伝導電子との強い混成効果による特異な物性が観測され、近年注目が集まっています。 加えて、この物質は 0.6 K で多極子秩序を示すことが知られています。 図1(左)に示すように我々の行った磁化測定からも低磁場( 2 T )での磁化の温度依存性M (T )において 0.6 K でわずかな下凸の折れ曲がりが観測されました。 このような小さな磁化の折れ曲がりは多極子転移においてしばし見られるふるまいです。 比熱測定による先行研究から、低磁場領域 ( 9 T 以下) の多極子相の磁気相図は一部得られていましたが、その全容は明らかにされていませんでした。


2013年3月のTopics図1
図1: (左) PrV2Al20H//[100] に対する 2 T での磁化の温度依存性 M (T ) ※0.3 K 以下の磁化の上昇は Pr の核スピンによる寄与, (右) 磁化過程 M (H ) から得られた微分磁化率の磁場依存性 dM (H )/dH

今回、[100] 方向に対してより高磁場 (最大 14.5 T ) まで磁場を印加して磁化測定を行ったところ、図1(右)に示すように微分磁化率の磁場依存性 dM (H )/dH において、約 11 T 以上でメタ磁性的な構造を発見しました。 さらにM (T )を高磁場で測定したところ、図2(左)に見られるように 11 T 以上で新たな折れ曲がりが発達することを見出しました。 図2(右)に示すようにこれらの異常が現れる磁場・温度を相図上にプロットすると明瞭な相境界を描くことができ、ゼロ磁場の多極子相とは異なる別の秩序相が高磁場で存在することを強く示唆する結果が得られました。


2013年3月のTopics図2
図2: (左) 高磁場領域でのM (T )/H, (右) 磁化測定から得られた磁気相図

この高磁場相の起源ですが、YbCo2Zn20 等で議論されたような結晶場準位の交差では説明できず、 低磁場の多極子モーメントとは異なる多極子モーメントが高磁場で安定化している可能性が考えられます。 似たような高磁場相は代表的な多極子秩序系 PrPb3 でも報告されており、本結果は Pr 化合物における多極子秩序の磁場応答に対する普遍性の理解につながる重要な成果です。

参考文献

Yasuyuki Shimura, Yasuo Ohta, Toshiro Sakakibara, Akito Sakai, and Satoru Nakatsuji
J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 043705.