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Last updated: Apr. 15, 2010

◆◆ CeCoIn5の超伝導ギャップ構造 ◆◆

従来の超伝導発現機構では超伝導状態を説明できない場合、 電子間に働く引力相互作用と密接に関係する超伝導ギャップ構造を明らかにすることが最も重要になってきます。 超伝導ギャップ構造を決定する実験的手法としては光電子分光による直接観察などが高温超伝導体で成功しましたが、 準粒子の励起を直接観測できるようなバルク物理量をプローブとしたギャップ構造決定のための手法が求められていました。 そのなかでも近年、磁場中で試料を回転させながら比熱や熱伝導率を測定することで、 ギャップ構造を解明する実験が提唱されました (磁場中角度分解熱特性の測定原理はここを参照)。


磁場中角度分解熱特性の測定原理となるドップラーシフトの大きさは本来小さいものですが、異方的超伝導の場合、 ノード付近の準粒子に対しては無視出来ない影響を及ぼし、 もともと状態密度のなかったフェルミエネルギーのところに有限の状態密度が現れます。 またドップラー効果は超流動流速vsと準粒子運動量の内積で決まるので、 ノード近傍の準粒子運動量とvs(すなわち磁場と垂直な向き)との角度の関数として状態密度が変化します。 この角度振動は磁場を回しながら比熱や熱伝導率を測定することで観測することができ、 それらが極小となる磁場方向が一般にノードの方向になります(図1)。


2010年1月のTopics図1
図1: 準粒子状態密度の磁場方向依存性

CeCoIn5の比熱や熱伝導率は温度依存性がべき的であることや、 Pauli limitによって上部臨界磁場が抑えられているという実験結果から 異方的d波超伝導体であることが知られています。 しかしCeCoIn5の超伝導ギャップ構造に関してはラインノードの位置が互いに45°異なるdx2-y2対称性 とdxy対称性の2通りが考えれており(図2)、いまだに議論がなされています。

2010年1月のTopics図2
図2: CeCoIn5の超伝導ギャップ対称性として考えられている dx2-y2対称性とdxy対称性

CeCoIn5に対してドップラーシフトが成り立つ温度・磁場領域で磁場中角度分解比熱測定を行った結果が図3です。 以前の結果と同様にc面内で磁場を回転させると 図3のように比熱が4回対称の角度振動することから、系がz方向に走る4回対称のラインノードを持っていることがわかります。 振動の位相に関しては磁場1 T(H/Hc2~0.086)において低温で反転するという現象が観測されました。 最新の数値計算の結果によるとドップラーシフトは低温・弱磁場(T/Tc~0.10、H/Hc2~0.3以下)でのみ 起こることが主張されており(図4右図)、 位相反転が起こったこの領域が真のドップラー領域であることを強く示唆しています。 このドップラー領域においては比熱が[110]方向に極小をとることから、CeCoIn5のギャップ対称性はx2-y2型であることが この実験から明らかになりました。


2010年1月のTopics図3
図3: CeCoIn5の超伝導混合状態における比熱の磁場方向依存性と振動の振幅の温度依存性

2010年1月のTopics図4
図4: 振動の相対振幅の等高線図。左図が実験結果、右図が理論計算の結果。

参考文献

K. An, T. Sakakibara, R. Settai, Y. Onuki, M. Hiragi, M. Ichioka, and K. Machida
Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 037202.