Last updated: Sep. 12, 2011
◆◆ YbCo2Zn20の磁場誘起秩序相 ◆◆
YbCo2Zn20は巨大な電子比熱係数γ= 8000 mJ/mol K2 を有することから近年大きな注目を集めている立方晶のYb系重い電子化合物です。 この化合物は低磁場(μ0H m = 0.6 T)で重い電子状態に起因すると考えられるメタ磁性(磁化過程に現れる階段状の磁化の上昇)が観測されています。 我々はより高磁場領域の磁気応答を調べるため、キャパシタンス式ファラデー法を用いて極低温(T >0.07 K)、高磁場(H <14.5 T)におけるDC磁化測定を行いました。
図1に示すように磁化の磁場依存性M (H )において0.08 K, H//[111]にてμ0H 'm = 6 T に新たにメタ磁性的な磁化の上昇が観測されました。 このH//[111]に現れる異常を詳細に調べるため、磁化の温度依存性M (T )を測定しました。 その結果μ0H > 6 T にて折れ曲がり(TO)が観測されました。このふるまいは何らかの相転移を示唆しており、6 T 以上に磁場によって誘起された秩序相が存在すると考えられます。図2にμ0H 'm、TOより作られた磁気相図を示します。
YbCo2Zn20は様々な物理量から低エネルギー領域に擬縮退した結晶場準位が指摘されています。 擬縮退した結晶場準位に磁場を印加するとゼーマン分裂によって、ある磁場で最も低エネルギーの二準位が交差することがあります。 しかし低温では基底状態の二準位の自由度は何らかの形で解放され、縮退が解かれる必要があります。それゆえ交差する磁場近傍で相転移がおこると考えられます。 図2に示すように実際に磁化測定から磁場によって増大した自由度(エントロピー)が相転移によって解放されるふるまいが観測されています。 また我々はH //[111]においてのみ準位交差を再現するYb3+の結晶場準位が存在することを明らかにしました。
準位交差を起源とする磁場誘起秩序相はいくつかのPr 化合物で観測されています。 その理由としてPr3+はf電子の強い局在性のため、結晶場準位がよく定義されることが挙げられます。 一方、Ybは一般に価数揺動が強くYb3+やその結晶場準位が安定しにくいことが知られています。 本結果は高磁場でのYbの持つf電子の強い局在性を示唆し、今後その起源の解明が期待されます。
参考文献
Y. Shimura, T. Sakakibara, S. Yoshiuchi, F. Honda, R. Settai, and Y. OnukiJ. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 073707.