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Last updated: Oct. 12, 2012

◆◆ Yb2Pt2Pbのスピンフロップ相と高次多極子 ◆◆

正方晶Yb2Pt2Pbは磁性を担うYbイオンが図のようなシャストリーサザーランド格子と呼ばれる二次元面内に配置され、直交した二種類の二量体によって形成されている。 J=7/2を持つYb3+がほぼ安定であると考えられ、約2.1 K以下で反強磁性相(I 相)に入る。 0.5 K 以上の比熱測定から強い異方性を持つ磁気相図が得られており、その異方性や大きな飽和磁化を説明するためには磁気モーメントが二量体の軸方向にしか配向できない(イジング性が強い)状態にあると考えられている。 加えて約 1 T 以上でⅡ相と呼ばれる別の秩序相が存在するが、その正体や秩序変数は明らかにされていなかった。


2012年10月のTopics図1
図1: Yb2Pt2Pbの結晶構造とYbイオンによって構成されるシャストリーサザーランド格子

今回我々はこの非自明なⅡ相の正体を明らかにするため最低温約 80 mKでの磁化測定を行い、H//ab(面内磁場)において多段のメタ磁性を観測した。 そして磁化の異方性の解析から、上記の指摘の通り、結晶場基底状態が|±7/2>に極めて近い強いイジング性を持っていることを確定づけた。 強いイジング性を持つということは、言いかえれば磁気モーメントが自由に回転することが許されないということを意味する。 その場合、磁化過程には一次転移的な階段状の磁化の上昇のみが現れるはすである。


2012年10月のTopics図2
図2: 二量体に平行な磁化の成分(赤はH//[100], 青はH//[110]からそれぞれ見積もられたもの)と磁気相図 (点線は比熱測定の結果(J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 123705.)から抜粋)

しかし、実験から得られた結果はⅡ相において線形的な磁化の上昇を示し、折れ曲がりを伴い秩序が崩壊している。 これはモーメントが磁場に対してななめを向いて整列している "スピンフロップ" 状態がⅡ相において安定化していることを示唆している。 そのためには容易軸方向(二量体の軸方向)に加えて、その垂直方向にもモーメントの成分を持たなければならない。 それが磁気モーメントではないとすると、その正体は何なのだろうか?


2012年10月のTopics図3
図3: (左)磁場印加にともなう秩序状態の変化の様子 (右)高次多極子の相互作用を取り入れて計算された磁化過程および磁気相図(挿入図)

|±1/2>の場合、Jzに対して垂直方向のモーメントは1次のJx, Jyであることがよく知られている。 一方、今回のような|±7/2>の場合、それは七次の多極子モーメント(磁気128極子)に相当する。 つまりななめを向いたモーメントの正体は容易軸方向の(1次の)磁気モーメントと高次の多極子モーメントによって構成される擬スピンであると考えられる。 そこで平均場近似の範囲内で七次の多極子モーメント間の相互作用を導入して、磁化過程や磁気相図の数値シミュレーションを行った。 その結果、Ⅱ相における線形的な上昇や折れ曲がり、磁気相図を半定量的に再現することに成功した。


参考文献

Y. Shimura, T. Sakakibara, K. Iwakawa, K. Sugiyama, and Y. Onuki
J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 103601.
** JPSJ Papers of Editor's Choice **