※ 注: この研究成果は京都大学固体量子物性研究室在籍時ものです。
Sr3Ru2O7-Sr2RuO4共晶体中のSr3Ru2O7領域で起こる多段階超伝導転移
Sr2RuO4とSr3Ru2O7は共にRuO2面を積層単位とした層状ペロブスカイト構造をとり、Sr2RuO4は非常に珍しいスピン三重項超伝導体であることが確実視されている。一方で、Sr3Ru2O7は常磁性金属であり、c軸方向の一軸性圧力下で強磁性転移を示す。近年、それぞれの結晶軸を揃えたSr3Ru2O7‐Sr2RuO4共晶体が当研究室で初めて育成され、新たなスピン三重項超伝導現象研究の舞台として注目された。
一方で、この共晶体の交流磁化率測定を極めて低い磁場中で行うと、複数の超伝導転移が起きていることが分かった。我々はSr2RuO4とSr3Ru2O7の領域を明確に区別できる試料を準備し、交流磁化率測定を行った。その結果、図1(a)のように主に3段の超伝導転移がおきていることが分かった。この3段の超伝導転移の起源を明らかにするため、この試料からSr2RuO4領域を削り取ってSr3Ru2O7だけの領域で同様に交流磁化率測定を行った。その結果、低温側の2段の超伝導転移は共晶のSr3Ru2O7領域で起きていることを明らかにした。
純粋なSr3Ru2O7はこれまで超伝導になるという報告がないく、その起源は非常に興味深い。我々はこの超伝導性について以下のような性質を明らかにした。
交流磁化率測定から2段の超伝導転移の交流磁場振幅・周波数依存性を調べ、ピン止めの非常に弱い超伝導であること、そして磁場遮蔽率がH//cでほぼ100%、H//abでわずか数%であることを明らかにした。また、温度磁場相図を構築し、2つの転移は共に通常のバルク超伝導体とは異なる下凸の相図を持つことを明らかにした。
比熱測定を行い、2段の超伝導転移に対応する比熱の異常が観測されないことを示した。この結果から、体積的には非常に小さい部分の超伝導であることを明らかにした。
共晶Sr3Ru2O7領域中をX線回折装置、エネルギー分散型X線分析装置、偏光顕微鏡を用いて観察し、Sr3Ru2O7以外の物質はSr2RuO4を含めて1 μmのオーダー以上のサイズでは存在しないことを明らかにした。
我々は、これらの結果から、共晶Sr3Ru2O7領域中で起こる2段の超伝導転移の起源として、『超伝導ネットワークシナリオ』(超伝導粒による転移と超伝導ネットワークを形成する転移)と『独立した異なるTcを持つ超伝導粒シナリオ』を提案し、それぞれのモデルのもとで数値シミュレーションを行った。その結果、『独立した異なるTcを持つ超伝導粒シナリオ』が良く交流磁化率の交流磁場振幅依存性を再現することを示した。これら実験理論両面から研究により、バイレイヤーのSr3Ru2O7の中に挿入された数層のモノレイヤーRuO2層(Sr2RuO4)が超伝導になっている可能性が最も高いことを提唱した。
この結果はPhysical Review B誌に掲載された。