※ 注: この研究成果は京都大学固体量子物性研究室在籍時ものです。
Sr2RuO4-Ru共晶体で起きるノンバルク超伝導の空間発達過程
純粋なSr2RuO4の超伝導転移温度(Tc)は1.5 Kであるが、Ru薄片がSr2RuO4単結晶中に析出したSr2RuO4-Ru共晶体では3 K付近からノンバルク超伝導が観測され、3-K相超伝導とも呼ばれている。3-K相超伝導はRuとSr2RuO4の界面のSr2RuO4側で起きていると考えられているが、 超伝導転移温度が上昇する起源は分かっていない。
我々はこの3-K相超伝導が試料の中で空間的にどのように発達しているのかを調べるために、共晶結晶からRu薄片の向きとSr2RuO4の結晶軸の関係が明確に分かる試料を切り出し(Sample-1:図1)、直流磁化および交流磁化率測定を行った。
Sample-1を用いて、Sr2RuO4の結晶軸の[001]、[100]、[010]方向に磁場を印加して、それぞれの磁場下で直流磁化測定を行ったところ、3-K相超伝導のオンセット温度付近(T > 1.8 K)では、[100]、[010]方向に比べて[001]方向の磁場下での反磁性磁化(バルク的超伝導体積分率)が顕著に大きいことが分かった(図2)。Ru薄片がおおよそSr2RuO4の(100)面に平行に析出している点に注目すると(図1参照)、3-K相超伝導は、Ru薄片の向きではなく、Sr2RuO4のRuO2面に沿って広がり易い特徴を持つことが分かった。
さらに、我々は3-K相超伝導による磁場遮蔽率(交流磁化率実部)の交流・直流磁場依存性についても調べた。3-K相超伝導による磁場遮蔽率は2 Kまでは試料全体のわずか数%に過ぎなかったが、2 K以下で急激に発達し、Sr2RuO4のTc(~1.4 K)直上では試料の数十から百パーセントにも達することが分かった。また、その3-K相超伝導による磁場遮蔽率は直流磁場に比べて交流磁場に敏感に抑制されることを見出した(図3)。
これらの結果を基に、共晶結晶中のRu薄片(Sr2RuO4との界面)の割合はわずか数%に過ぎないにもかかわらず、Sr2RuO4のTc以上の温度で磁場遮蔽率が100%近くに発達する理由として、界面で生じた3-K相超伝導が常伝導状態のSr2RuO4中へ近接効果で浸み出し、その浸み出し距離がSr2RuO4のTcに向かって発散的に成長することによるジョセフソンネットワークの形成が最も有力であることを示した。
この結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載された。