※ 注: この研究成果は京都大学固体量子物性研究室在籍時ものです。
一軸性圧力によって誘起されるSr2RuO4の高温超伝導相
Sr2RuO4-Ru共晶体ではSr2RuO4のTc(= 1.5 K)より約2倍高い3 Kから界面超伝導を示すことが知られていますが、そのTc上昇のメカニズムは長い間未解明のままでした。我々は、Sr2RuO4の異方的な結晶歪みがTcの上昇に寄与していると考え、Sr2RuO4-Ru共晶体の一軸性圧力効果の研究を行ってきました。静水圧力下ではSr2RuO4のTcは減少することが知られていましたが、以前我々が行った研究から、一軸性圧力下ではいずれの方向においても共晶体の1.8 Kでのマイスナー信号が上昇し、その上昇はRuO2面内方向の圧力下で最も大きいことが明らかになりました。この研究結果は、一軸性圧力によって共晶体の3-K超伝導が界面だけでなくバルクSr2RuO4にも深く広がっていることを示唆しています。
この共晶体における顕著な一軸性圧力効果がSr2RuO4の効果なのか、それともRuが存在することによる効果なのかを明らかにするために、我々は純粋なSr2RuO4の一軸性圧力効果の解明を目指して研究を進めました。純粋なSr2RuO4のTcは1.5 Kと低いために、これまで我々が一軸性圧力実験に用いてきたSQUID磁束計(Quantum Design社製MPMS:最低到達温度1.8 K)ではその超伝導転移は検出不可能でした。そこで、我々は0.3 Kの低温まで交流帯磁率を一軸性圧力下で測定可能な実験手法を開発し、Sr2RuO4の超伝導の一軸性圧力効果を明らかにすることに初めて成功しました。驚くべきことに、Sr2RuO4のc軸方向に僅か0.2 GPaの弱い一軸性圧力を印加すると1.34 KだったオンセットTcが3.2 Kにまで倍増することを明らかにしました(図1)。この効果は、バンド計算やEhrenfestの関係式からこれまでに予想されていた一軸性圧力効果と質的・量的に異なっており、Sr2RuO4が異方的結晶歪みの有無によりTc = 1.5 KとTc ~ 3 Kという2つの超伝導相を元来有していることを示唆しています。
この結果はPhysical Review B誌に掲載されました。