Sr2RuO4の超伝導一次転移において鋭い磁化のジャンプを観測
スピン三重項超伝導体の有力候補であるSr2RuO4では、ab面近傍の磁場方位において上部臨界磁場Hc2が低温で強く抑制されるメカニズムが分かっていません[1, 2]。さらに最近、そこでの超伝導転移が高純度の微小単結晶試料で一次相転移になっていることが発見されました[3, 4]。Hc2の強い抑制を伴う超伝導一次転移としてはパウリ効果が有名ですが、スピン磁化率が変化しないスピン三重項超伝導状態では期待できず、そのメカニズムが問題となっています。
Sr2RuO4の超伝導一次転移を研究するためには、(1) 磁場方位をab面に正確に合わせること、(2) 高純度の単結晶(現時点では微小結晶でしか一次転移は観測されていない)を用いること、(3) 極低温で測定を行うことが重要となります。そこで我々は、京都大学の前野悦輝教授のグループから提供していただいた高純度なSr2RuO4の微小単結晶試料(0.72 mg)の磁気的性質を詳しく調べるために、磁場方位を精密制御した上で極低温まで磁化および磁気トルク測定を行える装置の開発を行いました。開発した装置の模式図を図1に示します。この装置を用いることで、最低到達温度100 mK以下の環境下で磁場方位を0.05度以下の精度で調整して、磁化および磁気トルク測定を行うことが可能になりました。キャパシタンスセルについても微小結晶の磁化を検出できるように、従来のセルに比べて感度を100倍向上させた改良型セルを用いました。
この装置を用いて磁場方位をab面に正確に合わせ、100 mKの極低温で磁化の磁場依存性を測定した結果を図2に示します。超伝導・常伝導転移において、鋭い磁化のジャンプを観測しました。磁場の上げ下げで見られるオンセット磁場のヒステリシスは、超伝導・常伝導転移が一次転移であることを示しています。微視的理論に基づく数値計算結果と比較したところ、観測された磁化のジャンプはスピン一重項超伝導のパウリ効果で期待される磁化のジャンプと同程度の大きさであることが分かりました。このような顕著な磁化のジャンプを伴う超伝導一次転移が、スピン磁化率の変化しないスピン三重項超伝導状態でも起こり得るのかは今後明らかにしなければならない重要な課題です。他にも磁気トルク測定から、Hc2の異方性は温度と共に60から20へ減少するにもかかわらず[5]、実際の超伝導異方性は低温でも60のままであることも明らかにしました。
これらの実験事実は、Sr2RuO4の対破壊メカニズムや超伝導秩序変数を解明する鍵となります。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されました。
[1] Y. Maeno, S. Kittaka, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81, 011009 (2012).
[2] S. Kittaka et al., Phys. Rev. B 80, 174514 (2009).
[3] S. Yonezawa et al., Phys. Rev. Lett. 110, 077003 (2013).
[4] S. Yonezawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 083706 (2014).
[5] S. Kittaka et al., J. Phys.: Conf. Ser. 150, 052112 (2009).