角度分解磁場中比熱測定から見たUBe13の超伝導ギャップ構造と重い電子状態

超伝導ギャップは電子対の形成メカニズムと密接に関係するため、そのギャップ構造の解明が超伝導研究における重要課題の1つになっています。従来のBCS理論では、電子対は電子・格子相互作用を介して形成されるため、等方的な相互作用を反映して超伝導ギャップも等方的(s波フルギャップ)になります。一方、有効質量が自由電子の千倍程度に大きくなる重い電子系では、強いクーロン斥力の中で電子がゆっくりと動くため、電子・格子相互作用は電子間引力となりえず、フルギャップ超伝導の実現は困難であると考えられてきました。ところが、最近我々が行った角度分解磁場中比熱測定により、35年以上の長い研究の歴史を持つ重い電子系超伝導体CeCu2Si2が実は多バンドのフルギャップ超伝導体であることが判明しました[1]。重い電子系で発現するフルギャップ超伝導のメカニズムは今後解明されるべき重要課題であり、重い電子系超伝導の研究は新たな展開を迎えようとしています。

この流れの中で、我々は1983年にアクチノイド系で初めて見つかった超伝導体UBe13 [2] の超伝導ギャップ構造に注目しました。UBe13はCeCu2Si2に続いて2番目に長い研究の歴史を持つ重い電子系超伝導体ですが、そのギャップ構造は未だ明らかになっていません。これまでの研究で、ゼロ磁場における比熱[図1(a) 挿入図]や核磁気緩和率[3]が低温で温度のべき乗に比例することなどから、ノードを持つことは確からしいと考えられてきました。そこで我々は、CeCu2Si2と同様に角度分解磁場中比熱測定からUBe13のギャップ構造の解明を目指しました。その結果、極低温比熱が低磁場でギャップノードを持つ場合に期待されるH1/2に比例した振る舞いを示さないこと[図1(c):磁場に線型に比例]、超伝導ギャップの異方性を反映した磁場方位依存性を示さないこと[図1(d)]が明らかになりました。いずれの振る舞いもフルギャップの超伝導状態で期待される振る舞いであり、多バンド効果を取り入れることで比熱の温度依存性もフルギャップモデルで説明することができます[図1(b)]。これらの実験事実をもとに、CeCu2Si2に続いてUBe13も実はフルギャップの超伝導状態にあることを結論づけました。

2015年4月のTopicsの図1
図1 : (a) 様々な磁場におけるUBe13の比熱(C/T)の温度依存性(磁場方位は[001]軸方向)。挿入図は横軸をT2にしたプロット。(b) ゼロ磁場比熱の温度依存性(対数プロット)と多バンドフルギャップモデルに基づく数値計算結果。(c) 低温比熱の磁場依存性。(d) 低磁場における低温比熱の磁場方位依存性。(e) 様々な温度での高磁場領域における比熱の磁場方位依存性。

本研究結果により、UBe13の超伝導ギャップ構造が等方的であることは分かりましたが、超伝導対称性については未だ議論の余地があります。正確に述べると、本研究結果はUBe13のフェルミ面上にギャップノードがないことを示しており、フェルミ面が無い場所にギャップノードがある可能性は否定できません。実際に、UBe13の場合、バンド計算から<111>方向に目立ったフェルミ面が存在しないことが報告されており[4,5]、さらに<111>方向だけにノード(ポイント型)を持つ超伝導対称性も存在します[6]。そのため、超伝導対称性を結論づけるためには、今後も新たな実験事実を積み重ねていく必要があります。

我々は他にも、常伝導状態の比熱が数テスラの高磁場領域で立方晶の対称性を反映した興味深い磁場方位依存性を示すこと、およびその異方性が超伝導状態でもある磁場以上で観測されることを見出しました[図1(e)]。この特徴的な磁場応答は、UBe13の非フェルミ液体的振る舞いや超伝導相内部のB*と呼ばれる異常のメカニズム解明につながると考えており、現在も研究を進めています。

30年以上もの間、ギャップノードを持つと考えられてきた重い電子系超伝導体CeCu2Si2およびUBe13が相次いでフルギャップ超伝導状態にあると判明したインパクトは大きく、これら一連の研究成果は今後の超伝導の研究に大きな影響を与えるものと期待されます。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されました



[1] S. Kittaka et al., Phys. Rev. Lett. 112, 067002 (2014).

[2] H. R. Ott et al., Phys. Rev. Lett. 50, 1595 (1983).

[3] D. E. MacLaughlin et al., Phys. Rev. Lett. 53, 1833 (1984).

[4] K. Takegahara and H. Harima, Physica B 281, 764 (2000).

[5] T. Maehira et al., Physica B 312-313, 103 (2002).

[6] 例えば、E. I. Blount, Phys. Rev. B 32, 2935 (1985).



論文情報

Field-Orientation Dependence of Low-Energy Quasiparticle Excitations in the Heavy-Electron Superconductor UBe13
Yusei Shimizu, Shunichiro Kittaka, Toshiro Sakakibara, Yoshinori Haga, Etsuji Yamamoto, Hiroshi Amitsuka, Yasumasa Tsutsumi, and Kazushige Machida
(preprint: arXiv:1411.1504)