磁場角度分解比熱の全方位測定から明らかにしたUPd2Al3の超伝導ギャップ構造
磁場角度分解比熱測定はバルク超伝導体のギャップ構造を決める上で強力な研究手法です。これまでab面内で回転させた磁場中での比熱測定から、c軸に平行に走る縦ラインノードの位置を特定する手法を主にdx2-y2波超伝導体Ce115系を舞台に確立してきました[1, 2]。一方で、比熱測定から水平ラインノードの位置を特定した例はこれまでになく、最近ようやくURu2Si2において最初の例を報告しました[3]。その研究の過程で行われた理論計算により、ギャップがフェルミ球のkz=0に水平ラインノードを持つ場合、比熱のac面内磁場角度依存性、C(θ)、は低磁場で肩構造を伴う2回対称振動を示し、磁場の上昇と共に肩構造がハンプ構造へと変化して、さらに高磁場でC(θ)の異方性が反転することが予言されました[4] (図1:Calculation)。URu2Si2では低磁場でC(θ)の肩構造を見出し、水平ラインノードが存在する証拠として報告しましたが[3]、中間磁場から高磁場にかけてはパウリ常磁性効果が支配的になってしまい、ギャップ異方性によるC(θ)への効果を検証するには至りませんでした。
今回、我々は超伝導ギャップに水平ラインノードを持つことが有力とされる反強磁性超伝導体UPd2Al3 [5, 6]の磁場角度分解比熱測定を高純度な単結晶試料を用いて行いました。まず、ab面内での比熱の磁場角度依存性から目立った振動が見られないことを明らかにし、c軸周りに回転対称性を持つギャップ構造であることを示しました。さらにac面内での比熱の磁場角度依存性からC(θ)が2回対称の振動を示し、その振動が磁場の上昇に伴い肩・ハンプと特徴的な構造を示しながら高磁場で異方性を反転させることを見出しました(図1:Experiment)。この一連の比熱振動の磁場変化は、理論計算から予想された水平ラインノードギャップに期待される振る舞い(図1:Calculation)と極めて良く一致し、UPd2Al3はギャップに水平ラインノードを持つエキゾチックな超伝導体であると結論づけました。
本研究は、UPd2Al3において対形成メカニズムを解く鍵となるギャップ構造を明らかにしただけでなく、水平ラインノードギャップに典型的なC(θ)の振る舞いを実験と理論の両面から確立した点でも大変重要な意味を持ちます。これにより、磁場角度分解比熱測定が縦ラインノードだけでなく水平ラインノードの検証にも有用であることが実証され、他の多くのエキゾチック超伝導体の研究が進展するものと期待されます。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載され、Editors' Suggestionに選ばれました。
※ 本研究は、東北大学、京都大学、立命館大学との共同研究です。
[1] K. An et al., Phys. Rev. Lett. 100, 017004 (2008).
[2] S. Kittaka et al., Phys. Rev. B 85, 060505 (2012).
[3] S. Kittaka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85, 033704 (2016).
[4] Y. Tsutsumi et al., arXiv:1604.02806.
[5] N. Bernhoeft, Eur. Phys. B 13, 685 (2000).
[6] N. K. Sato et al., Nature 410, 340 (2001).