URhGeの磁場角度分解磁化

URhGeは、強磁性と超伝導の二つの状態が一つの物質内で発現する物質です。この物質にb軸方向から5度以内の狭い角度範囲に磁場をかけると、超伝導が一度壊れてしまいますが、さらに強い磁場かけると再び出現するという、磁場による特異な超伝導増強現象(リエントラント超伝導)が見つかっています[1,2]。一方、磁気スピンの一次相転移[3]が、これと同様の狭い磁場角度範囲で起こる[4]ことが予言されており、この相転移の起点である三重臨界点の揺らぎがこの現象のカギを握っている[5]と言われていました。これまで盛んに三重臨界点の研究が試みられてきましたが、磁場角度を高精度(0.1度)に調整しなければ正確に観測できないため、測定は困難でした。

今回、我々は極低温・高磁場下で試料の角度を0.01度の精度で制御できる2軸回転機構を備えた磁化測定装置を開発し、磁化からURhGeの三重臨界点を捉え、三次元相図の作成に成功しました(下図左)。この相図から三重臨界点はこれまで予想されたよりも超伝導状態から離れた高温にあり、三重臨界点の揺らぎは超伝導に直接影響しない可能性を示しました。また今回、三次元相図上で三重臨界点を起点とした特徴的な一次相転移面(ウィング構造)を捉えた。ウィング構造の形状は今までよく分かっていなかったが、今回我々がその詳細な形状を実験から初めて明らかにした(下図右)。 本研究で測定した磁化は強磁性量子相転移の理論に結び付けられる熱力学量であり、磁化から三次元相図の作成に成功した今回の結果は、磁場と超伝導増強の関係を明らかにするための重要な成果と言えます。また、本研究で開発した装置によって強い異方性のある系の研究の更なる進展が期待されます。本研究成果をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されEditors' Suggestionに選ばれました。(Posted by S.N.)

2017年9月のTopicsの図1
図1 : (左)URhGeの三次元相図。オレンジ色の面上で磁気スピンの一次相転移が起こる。三重臨界点はその一次相転移が起こる面の起点となっており、4 K以上の高温にあるのに対して、特異な超伝導(リエントラント超伝導)は高磁場(~12 T)下かつ0.5 K以下の低温で起こる。(右)磁化から捉えたHc-T面上に投影したWing構造(臨界磁場におけるdM/dHの強度のContour Plot)。この図から三重臨界点が4 K以上にあるのは明らかである。

※本研究は日本原子力開発機構(JAEA)との共同研究です。



[1] F. Lévy et al., Science 309, 1343 (2005).

[2] D. Aoki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 061011 (2014).

[3] F. Hardy et al., Phys. Rev. B 83, 195107 (2011).

[4] F. Lévy et al., J. Phys.: Condens. Matter 21, 164211 (2009).

[5] Y. Tokunaga et al., Phys. Rev. Lett. 114, 216401 (2015).



論文情報

Wing structure in the phase diagram of the Ising Ferromagnet URhGe close to its tricritical point investigated by angle-resolved magnetization measurements
Shota Nakamura, Toshiro Sakakibara, Yusei Shimizu, Shunichiro Kittaka, Yohei Kono, Yoshinori Haga, Jiří Pospíšil, and Etsuji Yamamoto
(preprint: arXiv:1709.00135)
This paper was selected for an Editors' Suggestion.