SrxBi2Se3におけるネマティック常伝導状態の証拠

近年、銅酸化物[1]や鉄系化合物[2, 3]、重い電子系物質[4, 5]などにおいて、結晶の回転対称性を破る新奇な電子状態(いわゆるネマティック電子状態)の研究が盛んに行われています。中でも、母物質がトポロジカル絶縁体であるビスマス・セレン化合物CuxBi2Se3(三方晶)においては、結晶の回転対称性を破る(スピン磁化率と超伝導ギャップの磁場角度依存性が2回対称性を示す)「ネマティック超伝導」が見出され[6, 7]、新しい種類の対称性の破れを伴う超伝導として注目を集めています。

我々は、CuサイトをSrに置き換えたビスマス・セレン化合物SrxBi2Se3に着目し、その電子状態の異方性を磁場角度分解比熱測定から詳細に調べました。その結果、本物質では超伝導転移温度より高い温度からネマティック電子状態が実現していることを突き止めました。常伝導状態にもかかわらずSrxBi2Se3において比熱の2回対称の磁場角度振動が観測された理由として、スピン軌道相互作用が強く働くネマティック相で準粒子状態密度の異方性が大きくなったためにゼーマン効果が顕著に磁場角度に依存した可能性を提案しました。

本研究成果はビスマス・セレン化合物におけるネマティック超伝導とその電子状態の関係に迫る上で重要な実験事実であり、結果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌に掲載されました

※ 本研究は、立命館大学、南京大学(中国)、東南大学(中国)、青山学院大学との共同研究です。



[1] R. Daou et al., Nature (London) 463, 519 (2010).

[2] J.-H. Chu et al., Science 329, 824 (2010).

[3] S. Kasahara et al., Nature (London) 486, 382 (2012).

[4] R. Okazaki et al., Science 331, 439 (2011).

[5] F. Ronning et al., Nature (London) 548, 313 (2017).

[6] K. Matano et al., Nat. Phys. 12, 852 (2016).

[7] S. Yonezawa et al., Nat. Phys. 13, 123 (2017).



論文情報

Quasi-particle evidence for the nematic state above Tc in SrxBi2Se3
Yue Sun, Shunichiro Kittaka, Toshiro Sakakibara, Kazushige Machida, Jinghui Wang, Jinsheng Wen, XiangZhuo Xing, Zhixiang Shi, and Tsuyoshi Tamegai
(preprint: arXiv:1902.08903)