磁場回転に伴う磁気熱量効果を利用した磁場角度分解エントロピー測定法

エントロピーは基礎的な熱力学量であり、系の縮重度を反映する重要な物理量です。一般に、エントロピーは比熱の温度変化から見積もることができますが、磁場角度変化まで高分解能に調べるためには複数の磁場方位で比熱の温度依存性を測定する必要があり、測定に膨大な時間を要する点が問題でした。

我々は磁場回転に伴う磁気熱量効果を精密に測定することでエントロピーの磁場角度依存性を比較的短い時間で高分解能に測定できる新たな手法を開発しました。ベンチマークとしてスピンアイス物質Dy2Ti2O7の磁場角度分解エントロピー測定を行った結果、スピンフリップ転移の角度依存性を高精度に検出し、モンテカルロ数値計算結果とも良く一致することを示しました。磁場回転測定に加え、従来の磁場掃引に伴う磁気熱量効果も測定すれば、エントロピーの磁場・磁場角度マップを作成することも可能です(図1)。今回開発した実験手法は、巨視的な縮退度を有するフラストレート磁性体や多自由度を有する固体凝縮相など様々なエキゾチック現象の研究に有用であり、幅広い分野の研究に新たなアプローチを提供するものとして期待されます。

2018年6月のTopicsの図1
図1 : 0.9 KにおけるDy2Ti2O7のエントロピーの磁場・磁場角度マップ。白の実線は最近接スピンアイス模型から導出されたスピンフリップ転移の臨界磁場の角度依存性。

本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました

※ 本研究は、首都大学東京、京都大学との共同研究です。



論文情報

Field-rotational magnetocaloric effect: a new experimental technique for accurate measurement of the anisotropic magnetic entropy
Shunichiro Kittaka, Shota Nakamura, Hiroaki Kadowaki, Hiroshi Takatsu, and Toshiro Sakakibara
(preprint: arXiv:1805.07940)