Sr2RuO4の超伝導秩序変数の再検証:超伝導ギャップに水平ラインノードが存在
Sr2RuO4は大変珍しいカイラルp波超伝導体の有力候補[1,2]として長年注目されてきましたが、近年それに反する実験事実も複数報告されています[3]。その最たる例が面内磁場下で生じる超伝導1次転移[4]です。低温でHc2の抑制を伴うことから「パウリ常磁性効果」が連想されますが[5]、現状のスピン三重項超伝導シナリオとは相容れません。また、擬2次元フェルミ面でカイラルp波超伝導が起きた場合、超伝導ギャップは対称性に守られたノードを持ちませんが、ラインノードの存在を示唆する実験結果も数多く報告されています。最近は縦ライン状のギャップ極小[6]あるいはノード[7]を持つ可能性が有力視されていますが、未だ議論が続いています。そこで我々は、近年著しい発展を遂げている磁場角度分解比熱測定からSr2RuO4の超伝導ギャップ構造を実験的に明らかにすることを目指しました。
ab面内回転磁場中では4回対称の比熱振動が低温で観測されますが、60 mKの極低温まで測定を行った結果、低磁場の比熱振動は符号反転することなく観測され続けることを新たに見出しました(図1)。本結果は、これまで有力視されてきた縦ライン状のギャップ極小(あるいはノード)を持つ超伝導体に期待される振る舞い(低温で比熱振動が符号反転を起こす[8])とは定性的に異なります。そこで、水平ラインノードギャップを仮定して微視的理論に基づく数値計算を行ったところ、フェルミ速度に異方性があれば比熱測定結果を定性的に再現できることを見出しました。さらに、パウリ常磁性効果を仮定すれば、より良い一致が得られることも明らかにしました。
以上の結果から、従来の予想に反して、Sr2RuO4は超伝導ギャップに水平ラインノードを備える秩序変数を持つことが有力です。本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました。
※ 本研究は、物材機構、筑波大学、マックスプランク研究所(ドイツ)、立命館大学、理研との共同研究です。
[1] A. P. Mackenzie and Y. Maeno, Rev. Mod. Phys. 75, 657 (2003).
[2] Y. Maeno and S. Kittaka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81, 011009 (2012).
[3] A. P. Mackenzie et al., npj Quantum Mater. 2, 40 (2017).
[4] S. Yonezawa et al., Phys. Rev. Lett. 110, 077003 (2013).
[5] S. Kittaka et al., Phys. Rev. B 90, 220502(R) (2014).
[6] K. Deguchi et al., Phys. Rev. Lett. 92, 047002 (2004).
[7] E. Hassinger et al., Phys. Rev. X 7, 011032 (2017).
[8] K. An et al., Phys. Rev. Lett. 104, 037002 (2010).