ここ数年、スクッテルダイトと呼ばれる結晶構造を持つ希土類化合物が熱電材料としてだけでなく、その新奇な物性からも注目を集めています。PrOs4Sb12はそのスクッテルダイトのひとつで、Pr化合物では初めての重い電子系超伝導体として考えられています。


図はDC磁化測定から得られたPrOs4Sb12の磁気相図です。この物質は零磁場においてTc1=1.85Kで超伝導転移を示します。この超伝導転移を高純度単結晶試料を用いて詳しく調べたところ、超伝導転移は一つではなく二つあり、その二つの相境界線は交わることなくほぼ平行になっていることが明らかになりました(図の赤と緑のライン)。このダブル転移の存在は比熱や電気抵抗測定からも確認されていますが、起源についてはまだ明らかになっていません。また熱伝導率の角度依存性からはTc2よりもさらに低温で超伝導ギャップ構造対称性の変化が報告されています。このような多重超伝導相を示す物質はこれまでに重い電子系超伝導体UPt3以外には見つかっておらず、その超伝導状態はかなり特異なものであることが予想されます。

この物質は超伝導転移以外にも4T以上でセリウム化合物では見られないような磁場誘起秩序転移(図のA相)を示します。磁化測定からは、[110]方向でA相内に構造変化を示唆する異常が見つかりました(図のH1H2)。最近の弾性中性子散乱の実験から、この磁場誘起相は反強四重極秩序(AFQ)相であることがわかっています。このような磁場誘起AFQ相の存在が明らかになったのはこの系が初めてです。

この物質の超伝導発現機構は、超伝導相にAFQ秩序相が近接していることから四重極モーメントの揺らぎを媒介とした新しい超伝導状態であることが期待され、注目されています。

 

参考文献
T. Tayama et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 72 (2003) 1516-1522.

 


○ Modulated Quadrupole Ordering in PrPb3

○ 回転磁場下の比熱測定による異方的超伝導体のギャップ対称性の研究
English [Field-Angle Dependent Specific Heat of the Anisotropic Heavy-Fermion Superconductor CeCoIn5]

○ スピンアイス化合物Dy2Ti2O7における気相・液相型転移

○ 重い電子系物質 CeCoIn5 の異方的超伝導

27Alの核スピン磁化のキュリ−常磁性

○ PrPb3の反強四重極転移

○ トリプレット超伝導体UPt3の異方的常磁性効果

○ 重い電子系物質CeRu2Si2のメタ磁性